「な……なんだったのだ、今のは! 何がどうなっている!? あの黑鎧は何者だ?」
全てが終わった戦場の上で、アルフィノくんが堰を切ったように、シドさんを問い詰めている。
その問いに、シドさんは険しい表情を浮かべながら、あの黒鎧の人物が、帝国軍第XIV軍団を率いる軍団⻑、ガイウス・ヴァン・バエサルであると告げた。
「そうか、奴が猛将、漆黑の王狼か……お祖父様の手記にも、その名があった」
その名前を聞いて、アルフィノくんが感慨深げに呟くのが聞こえた。
「クソッ……ガイウスめ、何を企んでいる」
シドさんが、苛立たし気に声を上げる。
私は、そんな二人の会話を聞きながら、さっき見た光景を思い出しながら、遠ざかっていくガルーダの祭壇を見据え続けていたのだった。
「ともあれ、蛮神ガルーダの脅威は去った……」
暫く無言だったアルフィノくんが、そう呟いた。
確かに、蛮神ガルーダは倒され、これ以上の被害は食い止められた。
その代わり、もっと厄介な問題が発生したわけだけれども。
「……あの兵器は、エオルゼアの新たな脅威となろう。叩かねばならん。とはいえ、情報を集めんことには動きようがない。我々にも休息が必要だ」
そう言って、アルフィノくんは、蛮神ガルーダ討伐作戦の完了を宣言した。
ただ、誰一人として、喜びの声を上げる者は居なかったけれど。
グリダニアへと戻って来た私達は、共に戦ったトコチさん達に別れを告げ、一旦、砂の家に向かおうという事になった。
アルフィノくん曰く、あそこから、再び、暁の明かりを灯したいという事だった。
「砂の家の惨状は話に聞いているが、そのままにしておくわけにもいくまい。犧牲となった仲間たちを弔い、我々も少し休もう」
彼のその言葉に、私は頷いて答えた。
私も、あの日以来、砂の家の中には入っていない……辛い事を思い出してしまうから敬遠していたのは事実だけれど、やっぱり、ちゃんと整理をして、改めて犠牲になったみんなを弔わないといけないよね……。
そして、私達は、ベスパーベイへと向かい、誰も待つことの無い、明かりの消えた砂の家に帰ったのだった。
砂の家の中は、相変わらず、暗く、時が止まっているかのように静寂に包まれていた。
全ての遺体が運び出されたせいか、なんだかとても広く感じる室内を、私達はゆっくりと奥へと進んで行く。
そして、ミンフィリアさんの執務室に入ろうとした時、シドさんが何かに気が付いた様に、私達を止めたのだった。
……誰かいる……? まさか、帝国兵?
そう警戒する私達を制しながら、シドさんが扉に近づき、一気に開け放った。
「ダレだ!!」
そこに居たのは、イダさんだった。
緊張を解くと同時に、彼女が無事であったことに安堵する私達。
「よかった……みんな無事だったんだね!」
イダさんも、私達が無事だったことに安堵すると、力が抜けた様に座り込みながら、笑顔を見せてくれたのだった。
イダさんは、タイタン討伐が完了した報を受けてグリダニアから帰還したところ、砂の家の惨状を目の当たりにしたらしい。
ヤ・シュトラさんも無事な様で、2人で遺体を埋葬したり、荒れた室内の整理をしたりしていたという。
以前、聖アダマ・ランダマ教会へ遺体を運んだ時、遺体の数が少ない事には気が付いていたけれど、そういう事だったのね…。
ヤ・シュトラさんは、今は、ミンフィリアさん達が浚われた先を調べに出かけているらしい。
私達は、とりあえず、ヤ・シュトラさんの帰りを待ちながら、ここで休息をとる事にしたのだった。
そして、私は夢を見た。
もしかしたら、夢では無かったのかもしれないけれど、そこで、私はハイデリンに再び会っていた。
「聞いて……感じて……考えて……光の意思を持つ者よ……光のクリスタルを……すべてのクリスタルを揃えし、勇なる魂を持つ者よ!」
「ついに闇が動き出しました……闇の化身……赤き仮面の者は、まもなく滅びにいたる混沌を招くでしょう……」
「あなたが手にした光のクリスタルは、闇を打ち払う武器となり 闇から身を守る盾となります」
「心して時を待つのです……闇はすぐそこまで迫ってきているのです……光の意思を持つ者よ……どうかあなたの力を……」
夢の中で、ハイデリンは私にそう訴えかけていた。
アシエン達は、どうやら蛮神問題だけでなく、ガレマール帝国にまで介入している様だし、ハイデリンの言う「その時」は、そう遠くないのだろう。
その時には、私に預けられた光のクリスタルが、きっと鍵になる。
そう、夢の中で、私は確信するのだった。
その時、誰かが部屋に駆け込んでくる物音が聞こえた気がして、私は目を覚ました。
目を開けたそこには、ヤ・シュトラさんの姿があったのだった。
「みんな……無事だったのね。それに、シド、アルフィノ様まで……なぜこのようなところに……いえ、これは全て、ルイゾワ様の導きかもしれない。暁の灯火を消すな……そう聞こえるよう……」
私達の姿を見て、安心した様に微笑んだ後、部屋に掲げられている壊れた杖を見上げながら、彼女は呟いた。
そして、私達に向き直ると、普段の凛とした表情に戻り、こう告げたのだった。
「ミンフィリアたちの行方がわかりました。どうか皆、ご助力を。彼女達が連れ去られた場所、それはモードゥナの奥地、帝国軍の軍事拠点……カストルム・セントリ!」
その言葉に、一気に目が覚めた私達は、強く、頷き合ったのだった。